本記事は、抗凝固薬・抗血小板薬の作用機序についてまとめています。
本記事を見ること前に出血から止血するまでの流れを解説(止血機構)で止血機構の流れを確認してみてください。
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動脈血栓症・静脈血栓症について
「血をサラサラにする薬剤」として知られる薬剤には「抗凝固薬」と「抗血小板薬」の2種類があります。心筋梗塞や脳梗塞では、血流の流れが早い場所で血小板が活性化することで動脈に血の塊ができるやすくなります。この場合は、抗血小板薬が有効です。
一方、深部静脈血栓症、肺塞栓、心原性脳塞栓症は、血流が悪くなることで凝固因子の活性化により静脈に血の塊ができやすくなります。この場合は、抗凝固薬を用いられます。
①動脈血栓症【血流の速い部分での血栓】←抗血小板薬
脳梗塞、心筋梗塞、末梢動脈血栓症
②静脈血栓症【血流の遅い部分での血栓】←抗凝固薬
深部静脈血栓症、肺塞栓、心原性脳塞栓症
それでは、抗血小板薬から見てみましょう!
抗血小板薬
【アスピリン(バイアスピリン)】
アスピリンは、血小板のシクロオキシゲナーゼを不可逆的にアセチル化して、トロンボキサンA2の合成を阻害します。抗血小板作用は血小板の寿命(7~10 日)と同じ期間持続します。
血小板抑制作用は低用量(60~325 mg/日)によってのみ発揮されます。これは、低用量で使用すると、血小板のトロンボキサンA2合成のみを抑制しますが、高用量(1.5~2 g/日)では血管内皮のプロスタサイクリン(血管拡張作用と血小板凝集抑制作用がある)合成も抑制するため、逆に抗血小板作用が減弱することがあります(アスピリンジレンマ)。
アスピリン自体の抗血小板作用は弱く、脊髄幹麻酔(neuraxial block)に伴う硬膜外血腫のリスクを増加させないと考えられていますが、他の抗血小板薬や抗凝固薬と併用されている場合は作用が増強する可能性があります。
【チエノピリジン系抗血小板薬(チクロピジン,クロピドグレル)】
チエノピリジン系抗血小板薬であるチクロピジンとクロピドグレルについて、血小板膜上のアデノシン二リン酸(ADP)受容体P2Y12にADPが結合すると、抑制性GTP蛋白質を介してアデニル酸シクラーゼを抑制し、血小板内のcAMPレベルを低下させ、細胞内カルシウム濃度を上昇させることにより、血小板凝集が促進されます。チエノピリジン系抗血小板薬はP2Y12受容体を阻害することによって抗血小板作用を発揮します。チクロピジンとクロピドグレルの抗血小板作用は不可逆的であり、アスピリン同様、作用は投与中止後も7~10日間持続します。
抗凝固薬
ワルファリン
ワルファリンは、ビタミンKエポキシド還元酵素を阻害することにより、活性型である還元型ビタミンKの合成を抑制し、ビタミンK依存性の凝固因子(II、VII、IX、X)の合成を阻害します。それぞれの凝固因子は生体内の半減期が異なります。
ワルファリンの効果判定のために用いられるプロトロンビン時間は、VIIとIXに感受性が高く、IIには感受性が低いです。現在、プロトロンビン時間を国際的に統一した絶対値として表示する目的で、プロトロンビン時間国際標準比(PT-INR)がワルファリン効果のモニタリングに用いられるのが一般的です。いずれか一つの凝固因子活性が20%を下回ると、全体の凝固能は抑制されるとされています。また、すべての凝固因子が50%程度に低下した場合も、同様に全体の凝固能が低下するとされています。したがって、ワルファリンの内服を中止または開始する際には、プロトロンビン時間が必ずしもワルファリンによる効果を反映していない可能性があります。
納豆、青汁、クロレラなど、ビタミンKを含む食品を摂取すると、ワルファリンの作用が減弱します。ワルファリンはチトクロームP2C9によって代謝されますが、その遺伝子多型はワルファリンの代謝活性に影響を及ぼします。一方で、ビタミンKエポキシド還元酵素の遺伝子多型も報告され、東洋人ではワルファリンに対する感受性が強いことが明らかにされています。
ヘパリン
ヘパリンは、分子量が5,000から20,000のムコ多糖があります。アンチトロンビンはXa因子とトロンビンを阻害し、抗凝固活性を発揮します。ヘパリン自体には抗凝固活性はありませんが、アンチトロンビンと結合することでその抗凝固活性を数千倍に高めます。ヘパリンがトロンビンを阻害するためには、トロンビンがアンチトロンビンとヘパリンの両方と結合しなければなりません。一方で、ヘパリンが第Xa因子を阻害するためには、アンチトロンビンが第Xa因子と結合するのみで足ります。未分画ヘパリンと低分子ヘパリンの作用の抗凝固作用が異なるのはこのためです。ヘパリンの半減期は45から60分です。ヘパリンの効果を測定するには、活性化部分トロンボプラスチン時間あるいは活性化凝固時間を使用します。
非ビタミンK阻害経口抗凝固薬(DOAC)
直接Xa因子阻害薬
経口の第Xa因子阻害薬は、いずれも直接的に第Xa因子を阻害します。これらの薬剤は、遊離型の第Xa因子だけでなく、血小板上のプロトロンビナーゼ複合体中の第Xa因子も阻害するため、より効果的に抗血栓効果を発揮します。一方、これらの第Xa因子阻害薬は、トロンビンによる血小板凝集を抑制しないため、出血性合併症のリスクも低いと考えられています。
直接トロンビン阻害薬
直接トロンビン阻害薬であるダビガトラン(プラザキサ®)は、トロンビンの活性部位に活性部位に結合し、アンチトロンビンⅢ非依存的に抗トロンビン作用をしめします。
ワルファリンに比べて、心房細動の患者において同等の抗血栓作用を発揮しつつ、出血性合併症の発生を低く抑えることが確認されています。ダビガトランは蛋白結合率が35%と低い上に、腎排泄率が80%と高いため、透析によって効果的に体内から排除することが可能と考えられています。
抗凝固薬・抗血小板薬はハイリスクのお薬ですので、
十分理解した上で扱うことが大切です!
引用元
日本血栓止血学会
https://jsth.medical-words.jp/words/word-46/Boehringer Ingelheim H P
https://pro.boehringer-ingelheim.com/jp/product/prazaxa/anticoagulant-therapy-for-atrial-fibrillation-moa日本ペインクリニック学会
https://www.jspc.gr.jp/Contents/public/pdf/shi-guide07_08.pdf
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