本記事は、出血が起こってから止血されるまでの流れを説明しています。
血を固まりづらくする抗凝固薬・抗血小板薬は「血がサラサラにする薬」と説明されることもありますが、抗凝固薬・抗血小板薬で代表的なお薬であれる「ワーファリン」や「バイアスピリン」などは全く異なる薬剤です。
薬の作用機序を理解するには、まずは出血してから血が止まるまでの
止血機構の流れを理解することが重要です!
それでは、止血機構、線溶系を確認しましょう。
止血機構
止血機構とは、損傷を受けた血管からの出血を阻止するために発生する血管壁と血液成分(血小板、凝固因子、線溶蛋白質)の一連の分子の複雑な相互作用であると言えます。出血から止血するまでに
一次止血、二次止血の2段階ありますので、順番に確認していきましょう。
次に血小板がどのように活性化して凝集するかを確認しましょう!
血小板同士が結合することを「血小板凝集」と呼び、血小板凝集には、血小板内顆粒の放出を伴わない可逆的な一次凝集と、血小板内顆粒の放出を伴う不可逆的な二次凝集
- 血管が損傷を受け、血管内皮が剥離すると、血管内皮細胞下組織のコラーゲンに
von Willebrand因子(vWF)が結合。 - 血小板は、血小板膜糖蛋白質のGPIb受容体を介してvWFと、またはGPVIやインテグリンなどの受容体を介してコラーゲンと直接結合し、血管内皮細胞下組織に粘着凝集。
- 損傷部位に凝集した血小板は活性化され、脱顆粒によってトロンボキサンA2、
セロトニン、アデノシン二リン酸(ADP)などを放出し、周囲の血小板を活性化。 - 活性化された血小板の表面には糖蛋白質(GPIIb/IIIa)受容体が発現。
- GPIIb/IIIa受容体にはvWFやフィブリノゲン、別の血小板が結合し、血小板同士がさらに
凝集し、止血栓を大きくする。この段階で血小板の凝集は不可逆的な結合となります。
バイアスピリンなどの抗血小板薬は血小板凝集などを抑えて血の塊(血栓)ができるのを防いでいるんですね。
1)外因系血液凝固
外傷などで細胞が傷害を受けると、組織因子(TF)が放出され、それによって開始されます。組織因子は、分子量が5万から30万の蛋白質であり、通常、血液と直接接触しない場所である血管外組織や
血管外膜、内皮下の線維芽細胞などに発現しています。組織因子は全身の臓器に存在しますが、
特に脳、肺、胎盤に多く見られます。
通常、血管内皮細胞や単球/マクロファージには発現していませんが、LPSやサイトカインの刺激によってこれらの細胞にTFが過剰発現するようになります。組織因子が血液と接触すると、第VII因子を活性化して複合体を形成します。この組織因子第VIIa因子複合体は第IX因子や第X因子を引き続き活性化します。
2)内因系血液凝固
内因系の血液凝固は、血管内皮細胞が破壊されたり、血液がガラスなどの異物に接触したりすることがきっかけで始まります。血液が血管内皮細胞下組織(コラーゲン)または異物に接触すると、第XII因子(Hageman factor)の活性化に続いて、第XI因子、第IX因子、第VIII因子が次々と活性化され、最終的には第X因子が活性化されます。第X因子から先の凝固過程は外因系と内因系で共通です。活性化された第X因子は、プロトロンビンをトロンビンに変えます。生じたトロンビンの作用で、フィブリノゲンはフィブリンに変化します。フィブリン分子はただちに重合して、フィブリン網が形成されます。外因系の凝固過程は10〜15秒で完了しますが、内因系の凝固過程の進行は遅く、15〜20分を要します。
ワーファリンは肝臓でビタミンKと拮抗して、プロトロンビン(第Ⅱ因子)をはじめとするビタミンK依存性凝固因子(第Ⅶ、Ⅸ、Ⅹ因子)の生成を阻害することで、血栓ができることを防いでいます。
血液凝固制御機序(線溶系)
血管の損傷が起こっていない部位で血液凝固が発生すれば、臓器の血流を阻害し、生体にとって有害となり得ます。血液凝固制御機序は、血管の損傷部位以外での血栓形成を阻止し、臓器の血流を維持する仕組みです。
- アンチトロンビン
- アンチトロンビンは、肝臓で産生されます。
- アンチトロンビンはトロンビンを不活化する他、第 Xa 因子、第 IXa 因子、
プラスミン、カリクレインなどを不活化します。 - この作用は、アンチトロンビンが血管内皮表面に存在するヘパラン硫酸と結合すると、その抗トロンビン作用は数千倍に増強されます。
- トロンボモジュリン
- 血管内皮細胞表面に存在するトロンボモジュリンは、血管内で生じたトロンビンと
結合し、トロンビンの凝固活性を直接阻害します。 - トロンビン-トロンボモジュリン複合体は、プロテイン C を活性化します。
- 血管内皮細胞表面に存在するトロンボモジュリンは、血管内で生じたトロンビンと
- プロテイン C
- プロテイン Cは、肝臓で合成されるビタミン K 依存性蛋白質です。
- プロテイン Cは、トロンビン-トロンボモジュリン複合体により活性化され、
活性化プロテイン C(APC)となります。 - APCは血管内皮や血小板のリン脂質上でプロテイン S(PS)を補酵素として、
活性型第 V 因子(FVa)、活性型第 X 因子(FXa)を不活化させることで凝固反応を抑制します。 - APCは線溶阻止因子であるPAI-1を中和し、線溶活性化を促進します。
- プロテイン S
- プロテイン Sは、プロテイン Cと同様に、肝臓でビタミン K 依存性に産生されます。
- プロテイン Sは、活性化プロテイン C(APC)の補酵素として活性型凝固第 V 因子(Va)、および第 VIII 因子(VIIIa)を不活性化させ、抗凝固作用を発揮します。
- プロテイン Sは血液中ではその60%が補体蛋白質C4b(C4bp)と結合していますが、C4bpと結合していない遊離型プロテイン Sのみが、抗凝固作用を有します。
- 妊婦、経口避妊薬の服用、SLE、ネフローゼ症候群では遊離型プロテイン Sが減少するため、プロテイン Sの抗凝固活性が低下する可能性があります。
- 組織因子経路インヒビター(TFPI)
- 組織因子経路インヒビター(TFPI)は276アミノ酸からなる糖蛋白質で、TFPIが血管内皮細胞上のヘパラン硫酸プロテオグリカン(HSPG)に結合すると、組織因子/活性化血液凝固第VII因子複合体(TF/VIIa)や活性化血液凝固第X因子(Xa)といった外因系血液凝固カスケードの開始点を阻害します。
日本血液製剤協会血が止まる仕組み 一般社団法人日本血液製剤協会
以上、止血機構の流れでした。
この流れを理解した上で、薬の薬理作用、病態を学ぶとより理解が深まります。
次の記事では、抗血小板薬、抗凝固薬をまとめますので、ぜひ確認してくださいね!
コメント