アルドステロン・ブレイクスルーって何?ARB、ACE阻害薬を作用機序からわかりやすく解説!

くすりのはなし

薬のくまさんと申します!今回は高血圧の患者さんへよく処方されるARB、ACE阻害薬について基本から解説しています。

ARB、ACE阻害薬を投与している患者さんのお話を聞いていると「最初は血圧が下がっていたのに、最近また血圧が上がってきたの。なんで?」というお話を聞くことがあります。

ARB、ACE阻害薬の治療により一度下がった血漿アルドステロン濃度が再び上昇する現象(アルドステロン・ブレイクスルー現象)が一定の割合で起こることが知られています。

アルドステロン・ブレイクスルー現象の前にレニン-アンギオテンシン-アルドステロン系の流れを押さえておきましょう。

腎臓の輸入細動脈の壁にある傍糸球体細胞からレニンが分泌されます。また、交感神経機能が亢進して、腎臓のアドレナリンβ1受容体が刺激されることによってもレニンが分泌されます。

血液中のアンジオテンシノーゲンからアンジオテンシンIという物質をつくります。アンジオテンシンIはアンジオテンシン変換酵素(ACE)によりアンジオテンシンIIに変換されます。

アンジオテンシンIIは、血管平滑筋のアンジオテンシンⅡAT1受容体に結合して、全身の動脈を収縮させるとともに、副腎皮質のアンジオテンシンⅡAT1受容体に結合してNaと水の貯留を起こすアルドステロン(鉱質コルチコイドの一種)を分泌させます。

アルドステロンはNaを体内に溜める働きがあり、これにより循環血液量が増加して心拍出量と末梢血管抵抗が増加します。

これをレニン-アンジオテンシン‐アルドステロン系(Renin-Angiotensin-Aldosterone System;RAAS)といい、血圧上昇後にはレニンの分泌は抑制され、この系の働きが低下します。1)

薬のくまさん
薬のくまさん

レニン・アンジオテンシン系は血圧を上げるための機構ですね。
血圧が下がり過ぎて、脳に血液が届かず死んでしまいます。

次にARB、ACE阻害薬を確認しましょう。

ARB(アンジオテンシンI(AI)受容体拮抗薬)
・ニューロタン(一般名:ロサルタン)
・プロプレス(一般名:シレキセチル)
・ディオバン(一般名:パルサルタン)
・ミカルディス(一般名:テルミサルタン)
・オルメテック(一般名:オルメサルタン)
・イルベタン(一般名:イルベサルタン)
・アジルバ(一般名:アジルサルタン)

【作用機序】
AT1受容体を選択的に遮断することにより、以下の反応が現れ血圧が降下します。
・血管拡張→末梢血管抵抗減少
・アルドステロン分泌抑制→体液量低下

【特徴】
・ARBの副作用は用量に関わらず低頻度です。
・妊婦への投与は禁忌です。妊婦への使用により羊水過少など妊婦への悪影響を及ぼすとともに、胎児への先天異常や重度の腎不全をきたすことが報告されています。
・重症肝障害患者には慎重投与です。
・両側性腎動脈狭窄例または単腎で一側性腎動脈狭窄例の場合、使用に伴って急速に腎機能低下をきたすことがあるため原則使用しません。
・重度の体液量またはナトリウム減少例、高カリウム血症を有する高血圧患者への使用には十分な注意が必要です。
・CKD患者では腎機能が悪化することがあるので、投与開始後はeGFRや血清カリウムのモニタリングが必要です。

ACE(アンジオテンシン変換酵素)阻害薬
・カプトリル(一般名:カプトプリル)
・レニベース(一般名:エナラプリル)
・セタプリル(一般名:アラセプリル)
・ロンゲス、ゼストリル(一般名:リシノプリル)
・チパセン(一般名:ペナゼプリル)
・タナトリル(一般名:イミダブリル)
・エースコール(一般名:テモカプリル)
・コナン(一般名:キナプリル)
・オドリック(一般名:トランドラプリル)
・コバシル(一般名:ベリンドプリルエルブミン)

【作用機序】
・アンジオテンシン変換酵素を阻害することにより、アンジオテンシンⅡ生成を抑制します。
・血管拡張→末梢血管抵抗減少→後負荷軽減
・アルドステロン分泌抑制→体液量(静脈還流量)減少→前負荷軽減

【特徴】
・ブラジキニンの増量による空咳が服用者の20~30%にみられます。
・稀に血管神経性浮腫による呼吸困難を生じます。糖尿病治療薬のDPP-4阻害薬との併用で血管神経性浮腫が増加するとの報告があります。
・腎排泄性であり、腎障害時は少量から投与します。
・妊婦への投与は禁忌です。

ACE阻害薬、ARBはアンジオテンシンⅡおよびアルドステロンの心血管作用を抑制します。その効果は投与期間中持続するが、一部の症例では、投与後に一旦抑制されていた血中アルドステロン濃度が治療の前値を超えて上昇することがあります。これをアルドステロン・ブレイクスルーと呼びます。

薬のくまさん
薬のくまさん

ACE阻害薬を投与した患者の10〜50%、ARBを投与した患者の40〜50%がアルドステロン・ブレイクスルーを起こすというデータがあります。2)結構な割合で起こりますね。

アルドステロン・ブレイクスルーの機序は明確には分かっていないようですが、ARBがAT1受容体に結合すると、負のフィードバック機構が働いてレニン活性が高まり、血漿アンジオテンシンⅡの濃度が上昇します。すると、過剰なA T2受容体の刺激でアルドステロンの分泌が起こると考えられています。

ただし、ARBの中で、唯一オルメサルタンはアルドステロン・ブレイクスルーが起こりにくいことが分かっています。ここで、オルメサルタンのインタビューフォームの記載を確認しましょう。

インタビューフォーム

③内分泌指標・血清脂質・耐糖能・腎循環動態

(i) 軽症・中等症本態性高血圧症外来患者 26 例に、オルメサルタン メドキソミル 5~40mg を 1 日 1 回朝 食後 1 年間経口投与した 。
血漿レニン活性は 6 ヵ月時以降有意に上昇していた。アンジオテンシンIは 12~16 週時及び 6 ヵ月時で平均値の上昇が認められた後、1 年時では有意に減少しており(paired-t 検 定;P =0.001)、アンジオテンシンIIは 1 年時において有意に低下していた(paired-t 検定;P<0.001)。 血漿アルドステロンは観察期と比較して 12~16 週時以降平均値の低下が認められ、6 ヵ月時において有 意に低下していた。

薬のくまさん
薬のくまさん

ARB、ACE阻害薬でアルドステロン・ブレイクスルーを疑われる患者さんには
オルメサルタンへの変更も選択肢になります。

以上、ARB、ACE阻害薬とアルドステロン・ブレイクスルー現象の説明でした。
日々の仕事に役立てて頂けると嬉しいです。ではでは〜!

ファルマスタッフ-薬剤師の転職派遣支援サービス

1)バイエルファーマナビ
2)医学のあゆみ

タイトルとURLをコピーしました